研究内容

01様々な神経変性疾患の病態には、異常タンパクの蓄積と凝集体形成が関与

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多くの神経変性疾患では、病理学的な解析により、神経組織における異常タンパク質の蓄積が示されてきました。これらの異常タンパク質は、老化や様々なストレスにより凝集体を形成し、神経変性をもたらすと考えられてきました。また、このような異常タンパク質の蓄積を標的とした治療法の開発が数多く試みられてきました。しかし、これまでの様々な知見から、異常タンパク質の蓄積だけでは神経変性の病態を説明しきれないことから、神経変性疾患克服のためには、異常タンパク質の蓄積に依存しない病態(早期病態)を明らかにする必要があると考えられます。剖検によって得られる死後の病理検体は、病気の原因を探るためのきわめて重要な検体で、神経変性が起こった後の状態の観察には非常に有用ですが、疾患の発症機構や神経変性過程の解析には適していません。したがって、神経変性疾患の病態の本質を解明するためには、「疾患がまさに起こっている状態を再現できる疾患モデル」を用いた解析が重要であると考えています。そしてそれがまさにiPS細胞を用いた疾患モデルであると考えています。

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02患者さん由来iPS細胞(疾患特異的iPS細胞)から作成した 神経細胞(ニューロン)の分化成熟過程の解析により 神経変性のメカニズムを解明

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神経疾患の患者さん由来のiPS細胞から作成した神経細胞は、「疾患がまさに起こっている状態を再現できる疾患モデル」になり得ると考えられます。そこで、我々は、神経変性疾患の患者さんから採取した細胞を用いてiPS細胞(疾患特異的iPS細胞)を作成し、このiPS細胞から作成(分化誘導)した「患者さんの神経細胞(ニューロン)」を用いて、神経疾患の病態解明と新たな治療法探索を進めています。特に、患者さん由来iPS細胞が神経細胞へと分化成熟する過程により、異常タンパクの蓄積や凝集体の形成、神経細胞の変性といった病気の発症や進行過程を培養皿の上で再現し、患者さんの細胞による新たな疾患モデルの作成と、神経変性のメカニズムの解明を進めています。

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03ヒトiPS細胞の神経分化誘導法の開発

ヒトiPS細胞を用いた神経疾患研究を進めるためには、ヒトiPS細胞から神経幹細胞や神経系細胞を分化誘導する必要があります。このため私たちは、ヒトiPS細胞から高効率に神経幹細胞や神経細胞を分化誘導する培養法を開発してきました。

このようなヒトiPS細胞の神経分化誘導法は、ヒト神経発生を培養皿の上で再現し得ると考えられ、そのメカニズムの解明に有用であると考えられます。私たちは、ヒトiPS細胞由来神経系細胞を用いて、神経疾患研究のみならず、ヒト神経発生に関する研究や、疾患解析や再生医療に用いるヒトiPS細胞由来神経幹細胞・神経系細胞の品質評価に関する研究も進めています。

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04患者さん由来iPS細胞を用いて培養皿の上で様々な神経疾患を再現

これまでに、様々な神経疾患の疾患特異的iPS細胞から神経系の細胞を作成し、疾患モデルの作成と病態解析を行ってきました。iPS細胞から分化した疾患感受性細胞(病気で障害を受ける細胞)は、患者の病態をよく再現しており、詳細な病態解析のみならず、薬剤の評価等にも応用することが可能です。

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当研究室では、これまで、主に、球脊髄性筋萎縮症(Spinal and bulbar muscular atrophy; SBMA)や、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)などの運動神経疾患の患者さんから樹立したiPS細胞を用いた解析をすすめてきました。

また、現在は、これ以外の神経疾患の研究にも取り組んでいます。

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05神経変性疾患の患者さんからのiPS細胞の作成

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患者さんから採取した線維芽細胞や末梢血に、リプログラミング因子(OCT4, SOX2, KLF4, C-MYC(山中4因子)、あるいはOCT4, SOX2, KLF4, LIN28, L-MYC, shP53などの組み合わせ)を導入することで、iPS細胞を作成します。作成したiPS細胞は、品質評価を行って、実際の研究に用います。品質評価は、未分化マーカーの発現や様々な細胞への分化能力(奇形腫の形成や培養皿の上(in vitro)での分化能)、染色体異常の有無、患者さんの遺伝子変異が保たれているか、などにより行います。

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06ヒトiPS細胞から運動ニューロンを迅速・高効率に分化誘導

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当研究室では、ヒトiPS細胞から運動ニューロンへ迅速・高効率に分化誘導する方法を開発してきました。約2週間で約40-60%の効率で運動ニューロンを誘導することができます。また、骨格筋細胞と一緒に培養することで、骨格筋とシナプス(神経筋接合部:Neuromuscular junctions(NMJs))を形成させることができます。また、運動ニューロン以外にも、様々な細胞の作成を進めています。

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07神経(ニューロン)変性を抑制する新規治療法の探索

患者さん由来のiPS細胞から作成した、患者さん由来の神経細胞を用いて、神経変性の分子メカニズムの解明をすすめています。また、この解析で同定した神経変性に関与する分子やシグナルを治療標的とした、新規治療の開発を目指しています。

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08運動ニューロンと骨格筋の相互作用に着目した疾患モデルの作成と病態解明

様々な神経筋疾患では、運動ニューロンと骨格筋の相互作用が、病態に重要な役割を果たしていると考えられます。したがって、運動ニューロンもしくは骨格筋単独の解析では本質的な病態を解明ができない可能性があります。筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)は、運動ニューロンが特異的に変性する神経変性疾患であり、従来、運動ニューロンそのものに神経変性の原因があると考えられてきました。しかし、近年、その病態における神経筋接合部(Neuromuscular junctions: NMJs)や骨格筋の関与が示唆されており、病態解析や治療開発の重要な標的として注目されています。われわれの研究室では、ALSやSBMAの患者さんからiPS細胞を作成し、運動ニューロンや骨格筋に分化誘導し、さらには、これらを共培養することで、細胞間の相互作用やシナプスの病態を再現し、新たな視点での神経変性疾患の病態解明を進めています。

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iPS細胞から骨格筋へ迅速・高効率に分化誘導する方法を開発

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iPS細胞由来骨格筋は、iPS細胞由来運動ニューロンと神経筋接合部(NMJ:Neuromuscular junction)を形成

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09ヒトiPS細胞由来運動ニューロンを用いた、末梢神経障害における神経再生

神経損傷や難治性神経疾患(筋萎縮性側索硬化症(ALS)など)では、有効な治療法がないため、運動機能再建のための有効な治療法が求められてきました。脊髄損傷やパーキンソン病では、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から作成した神経系細胞を用いて、障害された神経機能の再建が試みられ、治療応用を目指した研究が進められていますが、中枢神経系の複雑な神経回路網を再生するのは、いまだ困難であると考えられます。一方、末梢神経系では、複雑な神経回路網を再構築する必要がないこと、神経再生に必要な細胞数が少なくてすむことなどから、比較的実現可能性が高いと期待されます。共同研究機関である名古屋大学手の外科学のグループは、末梢神経損傷モデルラットを用いて、胎児由来運動神経細胞を用いた末梢神経系の再生と機能再建に成功しています。そこで、この技術とiPS細胞の技術、光刺激により神経細胞を刺激することのできる「オプトジェネティクス」の技術を組み合わせることで、私たちは、ヒトiPS細胞から作成した運動神経細胞を用いた末梢神経系の再生と運動機能の再建を目指した研究を進めています。

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